国立原産地・品質研究所(INAO)は4月、気候変動への適応において注目すべき新品種6つを、AOCボルドーとボルドー・シュペリウールの仕様書に統合することを正式に承認しました。これにより、栽培者はこれらの品種を試験的に植えることができるようになりました。ボルドー栽培地にどのような影響をもたらすのでしょうか?
ジロンド県の平均気温は、過去30年間で1.5 ℃上昇しました。気温上昇によるぶどう畑の変化は、既にあちらこちらに現れています:ぶどう樹の生育サイクルの短縮化、果実の過熟傾向、収穫期の前倒し…そしてワインのアルコール度数上昇です。「私が初めて醸造に携わったのは20年前です」とシャトー・モリヨン(カンピュナン/ブライ)の醸造責任者、グザヴィエ・グラシは語ります。「当時のワインのアルコール度数は12.5 %程度で、年によっては補糖に頼らざるを得ないこともありました。ところが、10年ほど前から状況は激変しました。14.5 %以下のワインとなることは、今では殆どありません」。
温暖化による影響を最も受けているのは、早熟品種であるメルロで、これはボルドーにおける黒ぶどうの栽培面積の66 %をも占めています。今後も更に暑くなると予想されるなか、ボルドーはバランスのとれた高品質ワインを生産し続けられるのでしょうか?このような状況に対処するため、栽培者にはどのような選択肢があるのでしょうか?
「過去30年間、生産者やウノローグは、ぶどうが完熟しにくい冷涼な気候に悩まされてきました」と語るのは、ワイン学研究員(ぶどうとワイン科学研究所/ボルドー大学/ウネオグループ)のアレクサンドル・ポンスです。「今日私たちは、劇的な変化に直面しています。今後は過剰な暑さと雨不足に対処していかなければなりません。畑と醸造所での全ての働き方を再検討する必要があります。換言すれば、何も変えないために、全てを変えなければならないのです」。
総取り換え?研究者らは既に数年前から、新たな品種、特にメルロよりも生育が遅い品種を模索してきました。
2009年、ボルドーワイン委員会(CIVB)の支援を受けて、ヴィルナヴ・ドルノンにあるヌーベル・アキテーヌ・国立農学研究所(INRA)に設置された試験区画ヴィトアダプト (Vitadapt)に、国内外からの計52品種(ヴィティス・ヴィニフェラ種)が植えられました。研究者らは、それらの品種の生育状況や、様々な環境および気候への適応性を調べ、乾燥した条件下での生理的反応を品種ごとに数値化する研究に取り組んでいます。
今回AOCボルドーとボルドー・シュペリウールへの試験的な統合*が認められた6品種(赤ワイン用4種、白ワイン用2種。下の囲み文参照)は、この区画から選出されました。「個性が強すぎたり、典型的なボルドーのぶどうと特徴がかけ離れているもの、例えばアルザスや地中海周辺の品種は除外しました。また、他の生産地のシンボル的な品種、例えばコート・デュ・ローヌのシラーなども除きました」と、CIVBの研究・開発・技術移転責任者であるローラン・シャリエは説明します。
生産者のなかには、気候変動への適応が期待されるこれらの品種の試験的な栽培に既に着手している人もいます。リュガサンのシャトー・ロックフォールでは、石灰質台地の小区画を植え替えるにあたり、メルロに替えてカステとアリナルノアを選びました。「私たちの畑で実際に試してみたいので、各4000本を0.8ヘクタールの区画に植える計画です」と語るのは、カミーユ・ジエ。「温暖化に対処する道を探りながら、これらの品種によって実際にアッサンブラージュの選択肢が増え、消費者に幅広いワインを提供できるようになるのかどうかを、長期的に見ていきたいと考えています」。
理論は同じですが、シャトー・モリヨンは別の品種を選びました:「メルロ主体から離れ、多様な品種を取り入れる以外に道はありません」と話すのは、グザヴィエ・グラシです。「4月末、0.6ヘクタールの区画にマルスランを植えました。この品種を選んだのは、丸み、ボリューム感、豊かさをもちながら、アルコールの印象が強すぎないワインに仕上がるからです」。
今後これらの新品種は、ボルドーワインのアッサンブラージュや味わいにどのように影響していくのでしょうか?この質問に答えるのは時期尚早なのですが、グザヴィエ・グラシは既にマルスランをどのように醸造するかを、はっきりと決めています。マルスランはカベルネ・ソーヴィニヨン(ボルドーの伝統的品種)とグルナッシュを交配させたものです。「初収穫は2023年になる予定です。他の品種と分けて、マルスランだけを単独で発酵・育成します。オーク樽ではなく、おそらくアンフォラを用いると思います。なるべくあれこれ加えず、この品種の持ち味であるフレッシュさを保ちたいからです」。
栽培地レベルで見ると、まだ多くの疑問が残っています。これらの新品種がボルドー栽培地にどのように定着するのかを観察し、香りや味わいの官能性、アッサンブラージュでの役割を評価するためには、少なくとも10年は必要です。「ところが今から10年後には、消費者の好みも変わってしまっているかもしれません!」とローラン・シャリエ。
アレクサンドル・ポンス研究員は、将来のボルドーワインにおける新品種の役割を、相対的に捉えています。「気候温暖化への対策は他にもたくさんあります。既に畑での様々な働き方を変え、台木などの植物素材も気候条件に合わせて改良しています。また、カルメネール、マルベック、プティ・ヴェルドのように、昔ボルドーで使われていたのに一時忘れ去られ、その後また復活した品種もあります。ですから、現在この地で用いられている品種を全面的に植え替えるとか、ボルドーワインのアイデンティーを支える要素を捨ててしまうなどという話ではないのです」。
*新品種の植え付けは畑総面積の5%以内、いずれの色のワインでも最終アッサンブラージュの10%以内に制限されています。従ってこれらの品種名は、ボトルラベルに表示されません。
黒ぶどう4品種
アリナルノア(Arinarnoa)(INRAが交配・開発 1956年):タナとカベルネ・ソーヴィニヨンの交配により誕生しました。糖度が低く、ほど良い酸味を含んでいます。複雑で長く続くアロマ、濃い色、タンニンの渋みが特徴的で、構成がしっかりとしたワインに仕上がります。
カステ(Castets)(フランス南西部原産):古い歴史を持ちながらも、長らく忘れられていたボルドーの固有品種です。灰色カビ病やウドンコ病、そして特にベト病にかかりにくく、色の濃い長熟型のワインを生み出します。
マルスラン(Marselan)(INRAが交配・開発 1961年):カベルネ・ソーヴィニヨンとグルナッシュの交配により誕生しました。晩熟で、灰色カビ病、ウドンコ病、ダニへの抵抗力が強い品種です。色が濃く個性的、高品質で長熟に適したワインをもたらします。
トウリガ・ナシオナル(Touriga Nacional)(ポルトガル原産):晩熟で、春の遅霜の被害を受けにくい品種です。つる割れ病を除くほとんどの真菌病に対する耐性をもっています。複雑で香り高い上質なワインが生まれます。堅固な骨格と濃い色を備えた、フルボディの長熟タイプです。
白ぶどう2品種
アルヴァリーニョ(Alvarinho)(イベリア半島原産):素晴らしい芳香をもつ品種で、暑さで失われがちな白ワインの風味を補ってくれると期待されています。灰色カビ病に強いほか、糖度は平均的なので、香り高く繊細、ほどよい酸味を備えたワインに仕上がります。
リリオリラ(Liliorila)(INRAが交配・開発 1957年):アルヴァリーニョと同じく芳香に優れた品種です。香り高く力強いワインが得られます。花などの熟成香が特徴的です。
(情報提供:AOCボルドー&ボルドー・シュペリウール生産者連合)